--* 活性酸素とは *-- |
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活性酸素〜病気の90%が活性酸素が原因〜酸化と老化地球が誕生した46億年前、地球上にはほとんど酸素はありませんでした。現在の生物にとってなくてはならない酸素は、海で発生した藻類などが光合成をして少しずつ作り出し、20億年以上もかけて作られました。ほとんどすべての動物はこの酸素を使って体内の栄養分を分解し、エネルギーを作り出しています。酸化とは物が酸素と結びつく働きを「酸化」といいます。例えば、鉄が時間とともに錆びていきます。これは鉄が空気中の酸素によって酸化されたためです。りんごを切ってしばらくたつと、切り口が茶色に変化してきます。これも、りんごの成分が空気中の酸素によって酸化された結果です。このように酸素に触れたものは必ず酸化していきます。人間の体は約60兆個の細胞から作られています。そして一つ一つの細胞が血液から酸素と栄養分を受け取り、酸素で栄養分を燃やして(酸化させて)エネルギーを得ています。 人間はエネルギー発生の過程で酸素を必要としますので、その際に使われる酸素に触れたものが(細胞膜,DNAなど)が酸化します。細胞が酸化してしまうと、その機能を果せなくなりさまざまな病気につながってきます。 老化とは人間の遺伝子には、最低90歳〜115歳まで生きられるようにプログラムされています。それもなんとか生きているというレベルではなく、元気に病気もせず生きていけるということです。そしてある日、遺伝子に組み込まれた時間が過ぎると「輝きつづけた電球がぱっと消えるように」天寿を全うします。しかし、多くの人は40歳前後から老化が始まり、60歳前後で病気が発病し徐々に弱りながら死を迎えます。これは年をとるにつれ体の細胞が酸化され、錆びてボロボロになってしまうからです。 活性酸素酸素の中でも特に酸化力が強い酸素を活性酸素といいます。身近なところにある活性酸素は、オキシドールや除草剤のパラコートなどです。オキシドール(薄い過酸化水素水)は傷口の消毒に使われます。傷口にオキシドールをつけると、ブクブクと泡が出てきます。オキシドールから発生した活性酸素が傷口のばい菌を殺し、その後普通の酸素に戻ったものが、傷口から出てくる泡の正体です。オキシドールはこのようにしてばい菌を殺しますが、同時にその周辺にある正常な細胞をも活性酸素で殺してしまう、両刃の剣のような働きをしています。そのとため最近ではほとんど使われなくなっています。 除草剤のパラコートには、植物の体内に大量の活性酸素を発生させる物質が含まれています。あまりにも大量の活性酸素が発生するため、パラコートを撒いた翌日にはほとんどの植物が枯れてしまいます。これを人間が誤って吸い込んでしまった場合は、ほぼ100%死亡してしまいます。 活性酸素とは人間は1分間に数十回呼吸をし、酸素を体内に取り込んでいます。通常の酸素は図のように原子の周りに8個の電子をもっています。それぞれの電子は2つで1つのペアを作り三重項酸素という安定した形で存在します。しかし、何らかの原因で電子のペアが崩れると、酸素は活性酸素化します。通常の呼吸で体内に取り込まれた酸素の約3%が活性酸素になります。 活性酸素は、ペアになっていない電子を持っているため、非常に不安定な状態になります。この状態の酸素は、自らを安定させるため手近にあるところから電子を奪い安定(酸化)しようとします。そして、活性酸素によって電子を奪われた物質は、また自分の手近にある物質から電子を奪います。 これは例えるなら「駅前に止めていた自転車を盗まれた人が、ほかの人の自転車を盗む。その盗まれた人がさらに他の人の自転車を盗むというようにして、町全体が自転車泥棒だらけになっていく」というようなことです。 活性酸素には4種類あります。 1.スーパーオキサイドアニオンラジカル 最も一般的な活性酸素で、安定した酸素分子の一方の原子にある電子が1つかけた状態です。酸化力が非常に強く、寿命は10万分の1秒です。 2.一重項酸素 通常の酸素(三重項酸素)から電子が2つ欠けた状態です。反応性が強いために次々と他の活性酸素に姿を変えていきます。皮膚が紫外線にあたると皮下組織内でよく発生します。 3.過酸化水素 酸素原子と2つと水素原子2つが結合してできた活性酸素の仲間で、殺菌剤としてよく知られています。反応性が強く、細胞膜の内外を行ったり来たりすることができます。銅イオンや鉄イオン,スーパーオキサイドアニオンラジカル+水素イオンと出会うと、ハイドロキシラジカル+一重項酸素に変わります。寿命が長いのも特徴です。 4.ハイドロキシラジカル 過酸化水素を半分にしたような構造を持ち、酸化力が最も強い活性酸素です。反応が早く、寿命は50万分の1秒です。過酸化水素と反応すると、スーパーオキサイドアニオンラジカル+水+水素になります。 活性酸素が体内で発生すると、細胞膜にある脂肪酸の電子を奪い取ろうとします。そして電子を奪われた脂肪酸はとなりの脂肪酸の電子を奪いとるという連鎖反応がものすごいスピードで起こります。 体内には、活性酸素の攻撃から細胞を守る物質(抗酸化物質)がありますが、繰り返し活性酸素の攻撃を受けると、抗酸化物質の量も少なくなり、細胞がどんどん酸化していきます。酸化が進んだ細胞は次のいずれかの状態になります。
ガン発生の仕組み人間の遺伝子(DNA)には、細胞がガン化するのを食い止めるための制ガン遺伝子という遺伝子があります。活性酸素によってDNA内の制ガン遺伝子が破壊されると、細胞のガン化が起こります。ガン細胞は普通の細胞とは違い寿命がなく、多くの栄養分を消費する化け物細胞です。これは長期間活性酸素による攻撃を受けると発生する確率が高くなります。厚生省研究班(1995年10月12日発表)によると、2000年に新たにガンと診断される人の数は1990年の約1.5倍の59万2千5百人にもなりそうだとのことです。これは1991年の20%増であり、しかも、肝臓ガン,肺ガンなどの治りにくいガンの割合が増えるもようということです。 過酸化脂質新鮮なバターはうすい黄色をしていまが、古くなってくるときつい黄色になりボロボロの状態になります。過酸化脂質とは、「変質したバターのような脂肪」と考えられます。本来は、「普通の脂肪」であったバターが、酸素によって酸化され過酸化脂質という「危険な脂肪」に変化したのです。体内にはコレステロールや中性脂肪という脂があります。これらは、人体の機能を維持していく上で必要不可欠のものです。そしてこれらは、酸化されていない状態では血管をふさぐなどの害を及ぼすことはまったくありません。しかし、これらの脂が活性酸素によって酸化されると、過酸化脂質に変化します。この過酸化脂質が、血管壁につき、しだいに壁の中に入り込み、徐々に血管をもろくしたり、血管をふさいだりします。 活性酸素の発生原因通常呼吸で取り込まれた酸素のうちの3%ほどは、活性酸素化します。例えば、ネズミの細胞1個で、毎日平均1兆個の酸素が消費され、そのうちの3%(約300億個)が活性酸素になります。通常活性酸素の発生率が3%くらいであれば体内にある、活性酸素を消去する物質(抗酸化剤)によって中和されるのですが、さまざまな原因により体内で活性酸素が大量発生することがあります。活性酸素の発生原因は、 1.自分自身の問題
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--* 活性酸素が関与する代表的疾患 *-- | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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活性酸素が原因の病気ガン,心疾患,糖尿病などの生活習慣病は、以前は遺伝や家系などといわれていましたが、現在では生活習慣病の90%が活性酸素が原因だということがわかってきました。1994年5月22日朝日新聞 「活性酸素の発ガン関与、人体でも確認 国立ガンセンターと産業医科大学は、活性酸素がガン抑制遺伝子などに突然変異を起こし、発ガンの引き金になっている可能性の高いことを、人体組織の研究で突き止めた」 と報道しました。 病気の原因の残り10%はウィルスなどによって引き起こされる病気です。ですからほとんどの病気の原因が活性酸素が関係しているということができます。 活性酸素が関与している病気老化,ガン,白内障,リウマチ,糖尿病,膠原病,農薬中毒,心筋梗塞,脳卒中,動脈硬化,歯周病,てんかん,放射線障害,アトピー性皮膚炎,胃・十二指腸潰瘍,パーキンソン病,脂肪肝,小児喘息,腎臓炎,子宮筋腫,生理不順,花粉症,川崎病,インポテンス,アルツハイマー痴呆症など◎活性酸素の主な発生原因
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--*活性酸素の対策 *-- | |||||||||||||||||||||||||||||||
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活性酸素から身を守るスカベンジャー
活性酸素から身を守るスカベンジャースカベンジャーとは活性酸素の攻撃から身を守るはたらきをする物質のこと。抗酸化物質とも言われている。体内で作られる酵素と、身体の外から取り入れる物質の2種類がある。体内で作られる「酵素」 食物が吸収されやすい物質に消化(分解)されるのも、生きていくエネルギーを作るのも、生命の営みのほとんどが、分子レベルの化学反応の組み合わせ。各器官では、必要な化学反応を起こすための酵素が作られている。体内で作られるスカベンジャーも酵素の一種だ。活性酸素と結びついて、害の少ない物質に変化させる。代表的なものに、SOD(スーパーオキシドディスムターゼ)、カタラーゼ、グルタチオンなどがある。 体外から取り入れる物質 スカベンジャーの役割をしてくれる物質は、食物にも含まれている。例えば、ビタミンC、ビタミンE、β−カロチン、ビタミンB群など。このほか赤ワインやココアなどにも活性酸素による酸化をおさえる物質が含まれている。 スカベンジャーがはたらくメカニズム スカベンジャーは何種類も存在するが、それぞれが独自に活性酸素を無害化しているわけではない。お互いの不足部分を補いつつ、図のような順で活性酸素を変えていくのである。活性酸素から身を守るためには、体内で作られる酵素だけに頼るのではなく、スカベンジャーを含む食物をバランスよくとる必要があるのだ。
以下の項目は「US HEALTH NEWS」より転載
★体は健康を望んでいます。免疫システムは、戦闘態勢に入るため防衛戦隊一団を装備し、感染による菌の侵入を感じるとすぐに力を結集、抵抗を開始するのです。 ★ビタミンAを地道に摂取することができた人には、最高得点のA評価をあげましょう。この複雑で効能のあるビタミンAという化合物は、様々な形や機能をもち、常に論争の的にもなっています。ビタミンAというのは、実際はレチノイドと呼ばれる天然分子群、あるいはプレフォームド・ビタミンA(ビタミンAの前段階で生産されるもの)の総称なのです。カロチノイドはビタミンAの前駆物質であり、体内でビタミンAに変化します。その最も有名なのが、強力な抗酸化物質であるベータカロチンです。 ★有害なフリーラジカルは、細胞を破壊する反作用性のある分子であり、血圧を引き上げます。しかし、ビタミンCや自然のビタミンEには、その上昇した血圧を下げる効果があるようです。自然のビタミンEがたっぷり含まれた食事をよく食べたりビタミンC配合の水を飲んでいると、自然の抗酸化物質グルタチオン値が低い場合でも、血圧が下がることが判明しました。
★セレニウムは有名な抗酸化剤であり、また抗癌性のミネラル(無機物)です。そして更に、細胞膜を破壊し蛋白質の突然変異を起こすフリーラジカル(遊離基)による破壊を受けやすい細胞を守ってくれます。セレニウムの出所は一般にはあまり知られていません。実は、動物や穀物を育む大地がまさにそのセレニウムの源泉なのです。大地に含まれたセレニウムが枯渇すると−アメリカの農地がしばしばそうであるように−体内に蓄積されたセレニウムの量は減少します。 |
--* 活性酸素の分子病態学 *-- | |
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活性酸素の分子病態学ー環境変異原の立場から
東京薬科大学薬学部 酸素は生体にとって必須な因子であるとともに傷害因子としてはたらく。酸素は、細胞内でエネルギー産生のため使われるが、ミトコンドリア(NADH脱水素酵素)では一部の酸素が一電子還元を受けててO2-を発生し、これから金属イオンの作用によってH2O2やより活性の強いOHラジカルが生じる。これらは化学反応性が強いため活性酸素 (reactive oxygen species、ROS)と呼ばれる。薬物代謝時のミクロソーム(NADPHシトクロム還元酵素)、殺菌時の好中球(NADPH酸化酵素、ミエロペルオキシダーゼ)、虚血再潅流時の細胞(キサンチン酸化酵素)においても
ROS が発生する。また、EDRFのNOは酸素やO2-と反応して、化学反応性の強い NO2 、N2O3、ONOO-などの活性窒素(reactive nitrogen oxide species、RNS)を生じる。これらROS、RNSは無差別的に体に傷害を与え、老化、動脈硬化、心疾患、炎症、がんなどの発症に関与していると考えられている。 東北大学大学院生命科学研究科 分子生命科学専攻 活性酸素によるDNA損傷や突然変異は、 Fe(III) + O2- → Fe(II) + O2 Fe(II) + H2O2 → ・OH + OH- + Fe(III) といういわゆるHarber-Weiss/Fenton反応により生じる・OHのDNAやヌクレオチドの酸化によると考えられている。このことはin
vitroのモデル実験では、証明されているものの、細胞レベルの突然変異誘発機構については明らかではなく、細胞内でも同様のHarber-Weiss/Fenton反応により鉄依存的に・OHが生成するかを実際に測定した例はこれまでにない。また、もし細胞内でもこの反応により生じる・OHが自然突然変異の原因となるとすれば、活性酸素の細胞内レベル同様、鉄含有量も自然突然変異頻度に影響を及ぼす重要なfactorとなると思われる。しかしながら、鉄の取り込み調節機構がDNA損傷や突然変異の抑制の立場で重要であるかどうかについてはほとんど知られていない。 ヌクレオチド除去修復で修復されるDNA酸化損傷とその生物学的意義 大阪大学細胞生体工学センター 生体内で生じた活性酸素は種々多様な経路によってその生命の遺伝情報を担うDNAに損傷を与える。これらの損傷は細胞死や突然変異を誘発し、多くの疾病、遺伝病、発癌、老化そして最終的には生物個体の死をもたらす可能性をもつが、生物はこれらの損傷を除去し、遺伝情報を安定に維持するDNA修復系をもっている。塩基除去修復(base
excision repair: BER)機構は特に活性酸素等により生じたDNA損傷を効率良く修復できる重要なDNA修復機構の一つとされている。
広島大学大学院理学研究科 数理分子生命理学専攻 好気的代謝や放射線により生成する活性酸素はDNAに損傷を誘発し,これが適切に修復されないと,突然変異や細胞死が起こる.活性酸素により塩基部位に生じる酸化損傷は構造的に極めて多様性に富むことが明らかにされているが,これらは主にN-glycosylase/AP
lyase活性を持つ塩基除去修復酵素によりDNAから除去される.大腸菌では,酸化塩基損傷の修復に関わる修復酵素として,ピリミジン損傷を認識するEndonuclease
(Endo) IIIとEndo VIII,プリン酸化損傷を認識するFormamidopyrimidine glycosylase (Fpg)が同定され,詳細な生化学的ならびに遺伝学的解析に基づき遺伝情報維持における役割が明らかにされている.近年,Endo
IIIおよびFpgの哺乳類ホモログとして,それぞれNTH1およびOGG1がクローニングされた.さらに,NTH1 (Kobayashi et al., 1999)およびOGG1 (Klungland et al., 1999; Minowa et al., 2000)の機能解析を目的にノックアウトマウスが作製されたが,現在報告されている限りでは発癌率の上昇等の明瞭な表現型は現れていない.したがって,NTH1やOGG1の遺伝情報維持における役割についてはさらに検討が必要である.本研究では,NTH1・OGG1の遺伝情報維持における役割を生化学的な視点から検討するために,両酵素の基質特異性と作用機序を調べ,その結果を大腸菌ホモログ(Endo
III, Fpg)と比較した. 京都大学大学院医学研究科 基礎病態学講座病態生物医学専攻 細胞内環境において、「フリーラジカル・活性酸素による負荷から、抗酸化酵素・抗酸化分子などによる防御・消去・修復作用をさしひいたもの」は酸化ストレスとして定義される。私たちは、鉄ニトリロ三酢酸 (Fe-NTA) によるラット腎発がんを酸化ストレスによる発がんモデルとして位置づけ研究を重ねてきた。このモデルの特徴は、腫瘍が上皮性、転移・浸潤が高率、鉄を介した酸化ストレスが種々の方法で実証されているという3点である。このモデルにおいて標的遺伝子は存在するのかという命題に対し遺伝学的なアプローチを行った。F1動物で Fe-NTA 投与により腎癌を作製し、ほぼすべての染色体領域について適当なマイクロサテライトマーカーを選択しゲノムスキャンすると、ラット染色体5番と8番に限り、数個の連続したマイクロサテライト領域に渡り loss of heterozygosity を見いだした。この結果とゲノムデータベースの比較から、私たちはFe-NTAの主な標的遺伝子のひとつがp15/p16癌抑制遺伝子であることを見いだした。更に、この標的遺伝子に起こる変異のほとんどは点突然変異ではなく欠損であり、5'プロモーター領域のメチル化も高率に起こっていた。p15/p16 遺伝子の欠損はヒトで多種類の悪性腫瘍で認められるものの、培養細胞ではない動物の腫瘍における報告例としてはこれが初めてのものであった。フリーラジカルの反応は免疫反応と性質を異にし、特異性がなく近傍のどんな分子とも反応するのが特徴である。したがって、活性酸素による発がんの際には種々の遺伝子が均等に傷害を受けるだろうとの予測がなされていたが、私たちのデータは思いがけずこの仮説に反するものとなった。この現象が p15/p16 遺伝子の染色体位置や核内構造に依存したものなのか、あるいは細胞の選択が発がん過程で生じたのかは現時点ではまだ明らかでなく、今後追究していきたいと考えている。また、この腫瘍における遺伝子の発現変化の追究と酸化ストレスの病理標本上における可視化に関しても言及する。 参考文献:1. Toyokuni, S. Free Radic. Biol.Med. 20, 553-566 (1996). 2. Toyokuni, S. Pathol.Int. 49, 91-102 (1999). 3. Tanaka, T. et al. Oncogene 18, 3793-3797 (1999). 4. Tanaka T. et al. Am. J. Pathol. 156, 2149-2157 (2000). 連絡先:toyokuni@path1.med.kyoto-u.c.jp
九州大学生体防御医学研究所 脳機能制御学分野
生物にとって、その遺伝情報を担うゲノムDNAを細胞から細胞へ、親から子へと正確に伝え維持することは最も基本的な生物学的機能であるが、ゲノムDNAやその前駆体であるヌクレオチドは、酸素呼吸の過程で必然的に発生する活性酸素や生体防御のために生体が能動的に産生する活性酸素によって酸化される危険に常に曝されている。活性酸素に曝されたDNAやヌクレオチドプール中には種々の塩基あるいはヌクレオチドの酸化体が生じるが、このような酸化的DNA損傷は修復されないと突然変異を引き起こすことで細胞のがん化の原因となり、あるいは細胞死を引き起こすことで脳・神経変性疾患など多くの変性疾患の原因になると考えられる。このような考えに基づき、我々はヒト細胞から酸化DNA損傷の修復に関わる4つの遺伝子、・
酸化プリンヌクレオシド三リン酸分解酵素をコードするMTH1遺伝子、・ 2-ヒドロキシアデニン/アデニンDNAグリコシラーゼをコードするMYH遺伝子、・ 8-オキソグアニンDNAグリコシラーゼをコードするOGG1遺伝子、・ 第二のAPエンドヌクレアーゼをコードするAPE2遺伝子を同定し、その機能や発現の調節機構の解析を進めている(下表)。 岐阜県国際バイオ研究所 我が国は世界でも稀にみる超高齢化社会に突入している。長寿を達成する実際的な方策は、動脈硬化、糖尿病、高血圧などの成人発症性疾患をいかに予防するかという点に集約される。成人発症性疾患は生活習慣病と呼ばれ、個人が生活習慣をいかに整え、疾患を予防するかという点が強調されているが、生活習慣病の発症と進展は、環境要因ばかりでなく、遺伝的素因の複合によっても規定されている。長い人類の歴史を通じてヒトの平均寿命は50歳以下であった。子供を産み終わり遺伝子を伝達した後にどのような疾患が現れようとも、種としての存続に何ら影響はない。生活習慣病はヒトの生物としての保証期間が切れた後に生じると言える。従って、多様な遺伝子多型が生活習慣病の背後に隠れている可能性がある。 三重大学医学部衛生学 1. はじめに 我々は、常に環境中の化学物質や太陽紫外線などに曝露されている。これらの環境因子の中には、酸化ストレスとして各種疾病に関与しているものも多数存在する。特に、環境中や食品中には多数の発がん物質が存在することが明らかになっているが、発がん機構がいまだ明らかになっていないものが多い。また、酸化的ストレスによりDNAや蛋白質が損傷され、老化が進行するという仮説が提唱されている。我々は、環境因子による活性酸素の生成に注目し、発がんおよび老化機構の解明を行ってきた。本シンポジウムにおいて酸化的DNA損傷の発がんや老化における意義をアポトーシス誘導機構も含めて概説する。 2. 実験方法の原理 実験にはヒトがん原遺伝子 c-Ha-ras-1 およびがん抑制遺伝子 p53 やp16のホットスポットを含む約 100〜400 bp の DNA 断片をサブクローニングにより多量に得た。その DNA 断片の5'末端を32Pで標識し、制限酵素で切断して一端のみが標識された単離 DNA 断片を調製した。Maxam-Gilbert法 を応用し、オートラジオグラムから DNA 損傷性とその塩基特異性を決定した。また、培養細胞を用いた実験においては、ヒト白血病細胞 HL-60 とそのカタラーゼ過発現株の HP100 を用い、アポトーシスや細胞内DNA損傷における活性酸素の関与を検討した。細胞内過酸化物量やミトコンドリア膜電位の変化は、それぞれに特異的な蛍光色素を用い、フローサイトメトリーにより検討した。 3. 酸化的DNA損傷と発がん 環境化学物質による発がん過程は、DNA付加体形成とDNA酸化損傷に大別される。職業がんの原因化学物質としてよく知られる芳香族アミノ化合物は、ベンゼン環が多くなるに従いDNA付加体を形成し、発がんの第1段階(イニシエーション)に関与する。しかし、我々は、ベンゼン環が一つのアミノ化合物であるオルトトルイジンはその代謝物が生体内物質存在下で酸化還元サイクルを形成し、酸化的にDNAを損傷することを明らかにした。また、食品加熱生成物ヘテロサイクリックアミンやアゾ染料等の多環式アミノ化合物は主としてDNA付加体を形成するが、そのN-ヒドロキシ代謝物は酸化的にDNAを損傷することを明らかにし、活性酸素を介して発がん過程の第2段階(プロモーション)にも関与する可能性を示唆した。 一方、ベンゼンは、Ames 試験では変異原性を検出できない発がん性環境化学物質である。我々は、ベンゼンの代謝物であるカテコール、ハイドロキノンおよび1, 2, 4-ベンゼントリオ−ルが生体内物質存在下において、酸化的に DNA を損傷する事を証明した。特に、生体内還元物質 NADH 共存下において、カテコールは、非常に強く DNAを 損傷した。この損傷機構として、カテコールの酸化生成物である1, 2-ベンゾキノンが NADH により速やかにカテコールまで2電子還元されるため(酸化還元サイクルの形成)、活性酸素が持続的に、多量に生成されることを明らかにした。また、HL-60 とHP100 細胞を用いた結果から、カテコールはH2O2の生成を介して細胞内 DNA を損傷することが認められた。これらのベンゼン代謝物、とくにカテコールは活性酸素生成を介して DNA 損傷を引き起こし、ベンゼンの発がん性に深く関与している可能性が明らかになった。その他のAmes試験陰性の発がん物質が同様に活性酸素生成を介してDNA損傷を起こすことも明かにしている。以上のように、Ames試験陰性の発がん物質は多くの場合、活性酸素生成を介してDNA損傷を起こすと考えられる。 発がん物質のトルエンやニトロベンゼンなどは生殖毒性をもたらすことが、最近明らかになっている。我々は、それらの代謝物であるメチルヒドロキノンやニトロソベンゼンが銅の存在下で活性酸素を生成し酸化的にDNA を損傷することを解明した。以上の結果から、発がん性を示す環境化学物質は、酸化的DNA傷害を介して生殖毒性も示す可能性があることが明らかになった。 4. DNA損傷とアポトーシス 細胞死のひとつであるアポトーシスは、発生、分化および発がんや神経変性疾患など様々な疾患の病態において重要な役割を果たしている。我々はこれまで環境因子や制がん剤によるアポトーシス誘導機構について研究を行ってきた。我々はベンゼン代謝物やスレオニンおよびグリシンの代謝物、マンノサミンなどのアミノ糖、食品添加物のジブチルヒドロキシトルエン、太陽紫外線(UVA)がヒト培養細胞において活性酸素生成や電子移動を介してDNA損傷およびアポトーシスを起こすことを認めた。一方、DNAアルキル化剤を用いてDNAを損傷した場合にもアポトーシスが誘導された。我々は、いずれのDNA損傷を介したアポトーシスの誘導過程においても、細胞内に活性酸素が生成され、ミトコンドリアの膜電位が低下して、カスパーゼ3が活性化されることを明らかにした。すなわち、DNA損傷を介するアポトーシスの誘導過程に活性酸素が重要な役割を果たしていると推察される。 5. 酸化的DNA損傷と老化 最近、染色体の末端部に存在するテロメア繰り返し配列 (5'-TTAGGG-3')nの短縮が老化のプログラムに関与するとの報告がなされている。我々は、生体内光増感物質存在下UVA照射により、テロメア繰り返し配列中の 5'-GGG-3' の中央の G に特異的に8-oxodGが生成することを見い出した。また、8-oxodG生成量を電気化学検出器付 HPLC で定量した結果、テロメア繰り返し配列を含む合成 DNA において 8-oxodG の増加を認めた。さらに、UVA 照射量に依存して、ヒト培養細胞中に有意に8-oxodG が増加すると同時に、テロメア繰り返し配列の短縮促進が認められた。また、酸化ストレス(H2O2やNO)により5'-GGG-3'配列中の5'側Gに8-oxodGが生成されテロメア繰り返し配列の切断が起こりやすくなることを解明した。UVAや酸化ストレスによるテロメア繰り返し配列の短縮促進が皮膚の老化促進に関与すると考えられる。 文献 酸化的DNA損傷と発がん |