適量のアルコールは「百薬の長」ともいわれます。気分がさわやかになり、ストレス解消に役立ち、血液中の善玉コレステロール(HDL)を増加させ、動脈を若返らせる働きもあります。しかし、これはあくまで適量の範囲内の話です。お酒の難点は、ついつい飲み過ぎてしまうことでしょう。そうならないようにブレーキをかけながら、適量の範囲内で楽しむことが大切です。 ところで、食品としてのアルコール飲料はエネルギー源となります。飲んだアルコールの一部は胃で吸収され、残った分は小腸の上部で吸収されて肝臓にいきます。一時間に7〜10グラムのスピードで代謝され、1グラムについて約7キロカロリーのエネルギー源になります。一時間に50〜70キロカロリーですから、ちょうど基礎代謝の分ぐらいのエネルギーです。座って飲んでいるときの消費エネルギーは基礎代謝の1.2〜1.3倍ぐらいのものですから、酒を飲めば体がすぐに温まってくるわけです。 お酒を飲むスピードを、20分間でビール1本(750グラム)、あるいは日本酒一合(180グラム)とすると、含まれるアルコール量はどちらにしても約30グラムで、肝臓で代謝されるのはそのうちの10分の1くらい。残りは血液によって全身に運ばれ、脳の働きや運動機能、内臓機能にも影響を与えます。摂取したアルコール量とその血中濃度との関係、血中濃度と酔い加減の関係を表にしました。体重60キロの人なら、ビール1本で血中濃度は60mg/dlです。このアルコールが消滅するためには、一部が呼気や尿に排出されるとしても、4時間ぐらいはかかる勘定になります。
体質によってアルコールに強い人、弱い人がいますが、これはアルコールを代謝する酵素の力によります。アルコールの代謝は次の3段階で行われます。
@アルコール脱水素酵素によってアセトアルデヒドになる(アルデヒドはホルマリンのような毒物)
Aアルデヒド脱水素酵素によってアセテート(酢酸)になる。
BTCAサイクルの反応系によって燃焼し、炭酸ガスと水になる。
ところが、Aの段階のアルデヒド脱水素酵素には1型と2型があり、2型が欠けている人、あるいはその動きの弱い人はアルコールに弱いということになります。
イ.1型の酵素−高濃度になって初めて作用し出す。
ロ.2型の酵素−血中アルデヒドが低濃度でも作用を始める。
2型が欠けたり、弱かったりすると、体内にアセトアルデヒドがぐんぐん増して、酔いの症状が出てきてしまいます。 人種によって、2型が欠けている人の割合には差があるといわれています。100分率でみると日本人(44)は、ベトナム人(57)、漢人(50)、モンゴル人(30)とともに多いほうで、ドイツ、トルコ、ユダヤ、アフリカ人は0、タイ人(18)、フィリピン人(14)、北アメリカ人(7)、メキシコ人(6)などが中間です。白人に酔っぱらいが少なく、ウオッカのような強い酒をガブガブ飲んでも平気なのは、体質のせい(強力な2型のアルデヒド脱水素酵素を持ち、どんどん代謝してしまう)であることが分かります。
アルデヒドをたまりにくくするためには、アルコールの吸収速度にブレーキをかけるとよいのですが、そのためには脂肪分が役立ちます。アルコールの中に脂肪が溶け込んで吸収を遅くするからです(ハイボールなどの炭酸や、酒をお酌して回ったりする軽い運動は逆に早める)。あらかじめ、チーズなどを胃の中に入れておいたり、酒のさかなにしたりするとよいでしょう。また、高たん白食品は、アミノ酸(特にメチオニン)の作用によって、肝臓をアルコールの害から守ってくれます。
アルコール飲料はエネルギー食品ですから、酒のさかなには主菜食品(たん白源)のほか、副菜食品(食物繊維源)も添えるようにして、栄養のバランスに気を配りましょう。
※女子栄養大学名誉教授 二葉栄養専門学校校長
仕事が終ったあとのお酒って、ホントにおいしいてすよね。でも、アルコールは、「百薬の長」と言われたり、「気を狂わす液体」と言われる二つの面を持っています。
中高年になると、アルコールの解毒機能や排泄機能が、低下していく傾向があります。また、とかく付き合いや宴席が多くなり、人によっては寂しさや気分の落ち込みをまぎらすために、ともするとアルコールの悪い作用に侵されがちになります。
ここでは、中高年者とお酒をテーマに、アルコールとの上手な付き合い方を考えてみましょう。
それではまず、お酒の作用についてみてみましょう。
アルコールは、少量ですと「ほろよい気分」になって、陽気になったり、おしゃべりになったりします。
これを過ぎると、「酔っぱらった状態」となり、さらに「深酔い」となり、ついには「意識がなくなってしまう状態」になります。つまり、アルコールは少量だと興奮作用として働き、多量だと麻酔作用として働くのてす。
また、アルコールの作用には、急激に多量のアルコールを飲んだ場合にあらわれる急性作用と、長期にわたって習慣的に飲んでいる場合の慢性作用があります。
急性作用の場合は、不整脈、嘔吐、意識喪失、ショックによる心停止などの急性中毒症状があらわれます。いわゆる、急性アルコール中毒です。
慢性作用の場合は、各臓器の障害となってあらわれます。特に、アルコールの90%以上が肝臓で解毒されるため、肝臓への負担が増し、肝硬変、脂肪肝、アルコール性肝障害などの肝臓疾患が最も多くみられます。
このような臓器の障害とは別に、長年飲み続けてゆくうちに習慣となり、お酒がないと精神的に不安になったり、アルコールなしではいられないアルコール依存や、その他さまざまな精神症状が起こることがあります。ですから、お酒は常に功罪の両面があることを知って飲むことが大切です。
アルコール依存症などの慢性のアルコール中毒は、徐々に進むので、気がつかない場合が意外と多いものです。
一般に、女性は女性ホルモンの関係で、お酒を飲みはじめてからアルコール依存症になるまでの期間が男性より短かいと言われています。高齢者の場合は、一人暮しが多いので、アルコール依存の状態をみつけることがむつかしい場合が多いようです。
ですから、本人は勿論、家族や身近な入が「もしかして」と思うような注意信号に気を配っておく必要があります。
それは、このようなサインのうち一つでもあれぱ依存症への注意信号です。
・昼間から酒臭い
・足元がふらつく
・酒が切れるとイライラしたり不機嫌になる
・眠れない
・急に取り乱したりする
・お酒を飲んでいる時のことを覚えていないことが度々ある
・手が震える
依存症の注意信号がみつからなくても、酒の空瓶・空缶がやたらに見つかる人は、要注意です。
長期にわたってお酒を飲み続けると、このような症状がでてきます。 ・飲みたい気持がおさえられず、お酒がやめられない。 ・経済的に困まっていたり、家族など周囲のものに迷惑をかけることが多くても、やめることがてきない。
・一時的にやめられても、一度飲み始めると自分では止められなくなる。 ・飲んでは酔っ払って眠り、目がさめるとまた飲むといったことを繰り返す
こういう状態になってしまったものをアルコール依存症といいます。このようになったら、治療が必要です。
アルコール依存症の人は、ときに、小さな虫や蟻がはいまわっているのがみえたり、本人を非難したり、うわさする声が聞こえたりといった幻覚症状や、実際には、そのような事実もないのに、例えば、配偶者の不倫を信じ込むといった妄想などがみられたりします。
このような人がお酒を飲まないでいると、けいれんが起きたり、意識がおかしくなって幻覚や興奮がみられたり、発汗、手の震え、不眠、不安を覚えたりすることがあります。
さらに、長期間の飲酒によって、ボケが起きてくることもあります。
アルコールによって生じる問題には、アルコール依存症や、アルコールによる精神病などのほかにも、さまざまなものがあります。
健康問題、家族問題、職業問題、事故、犯罪や警察問題などがそうです。このような問題は社会問題となることが多いため、予防への関心が高まっています。
健康問題:胃腸障害、肝硬変、脳障害、癌、心臓疾患
家族問題:配偶者虐待、夫婦間暴力、離婚、家庭崩壊、宿無し(ホームレス)、不登校など子供の問題
職業問題:欠勤、転職、失職
事故:産業事故、運転中の事故、レクリエーション中の事故
犯罪や警察問題:けんか、保護、暴行、暴力、刑事事件
アルコール関連問題への対応には「適性飲酒の普及」、「相談・指導」、「医療」、「再発防止」が、目標としてあげられています。
特に、大量飲酒でお困りの方やアルコール依存症の方は、専門的な治療が必要です。近くの保健所や精神保健センターやアルコール障害に重点を置いた専門病院などへ相談に行って、治療を受けることをお推めします。
アルコール専門病院では、治療と本人の努力によって、多くの患者さんが治っています。
「再発防止」については、医師の相談を受けると共に、自助グループである断酒会への参加をお推めします。
断酒会では、定期的に集まって、体験談などを語り合いながら、お酒をやめ続けるために励ましあっています。その体験談の一つとして、酒がやめられず、長女が明日七五三というとき、えもん掛けにかけていた晴れ着を質に入れてまで飲んだ頃のことや、お酒を飲み続けているうち、肝臓など体がボロボロになってしまって、お医者さんに「死んでもいいのか!」といわれ、入院して治療を受けたときの話。
そして、酒では、家族にさんざん迷惑をかけたが、退院の時は温かく迎えてくれた。それがとてもうれしかったという感想なども語っています。
仲間と語り合い、励まし合いながら、酒をやめ続けて20年、いや40年という人もいて、ここ、断酒会に通ってくる人々はいま、とても幸せに暮しています。
アルコール依存症になる人には、管理職の方などが多いようです。仕事や人間関係から生じるさまざまなストレス解消のために、つい、お酒を飲んでしまうといった繰り返しだからでしょう。
高齢者の中には、配偶者の方との死別や、仕事のない一人暮しなどの孤独感、また、こうした悲しさや生き甲斐のなさをまぎらわすために、お酒に楽しみを求めて多量な飲酒になることもあります。
精神保健や身体の健康という見地からは、中高年の方の対応が最も大切です。なぜなら、だれでもアルコールとかかわりを持つ機会があり、だれもがアルコールにまつわる問題に巻き込まれる機会が多いからです。
アルコール依存症の予防には、気分の発散や転換を図るために、親しい友人とのおしゃべりの機会や、スポーツ、趣味など、自分に合ったストレス解消法を身につけておきましょう。
では、アルコールとうまく付き合うには、どうすれぱよいのでしょうか?
アルコールとうまく付き合うための四カ条を頭に刻んで、適性飲酒をすることをおすすめします。
まず第一に、お酒はゆっくり楽しく飲みましょう。「よいお酒」というのは、気分がほぐれて、まわりも快活になるようなお酒のことです。
ゆっくり楽しく飲むことによって、度を過ごすこともなく、からだにも精神にもよい状態が生まれます。
第二に、食べながら飲みましょう。少量のアルコールは、胃液の分泌をよくして食欲を刺激します。ですから、たん白質や脂質に富んだものを食べながらお酒を飲むことは、食べたものが胃壁を保護してくれますのて、健康上もとてもよいのてす。
第三に、適量を守りましょう。何事も程々が肝心です。お酒も、自分に合った量というのがあります。
適正飲酒のおよその目安としては、一日にビール1〜2本、日本酒の場合は1 〜2合、ウィスキーの場合はダブル1〜2杯です。このようなほろ酔い気分になる程度に留めるようにしましょう。
第四に、週に2日は休肝日を設けましょう。ビール1本のアルコールを肝臓で解毒するためには、約3時間か かると言われています。
多量にお酒を飲むと、肝臓は休みなく働いていることになり、肝臓障害を起こします。肝臓障害がないからアルコールをいくら飲んでも大丈夫という考えば、間違いです。アルコール依存にも陥らず、身体をこわすこともなく、お酒を「長く味わう」ために、週に2日は禁酒することが鉄則です。
お酒は付き合い方によって、人生を楽しくする飲み物にもなれば、人生を狂わす恐ろしい飲み物にもなります。それを決めるのは、皆さんの意志です。
その人に合ったぺースと量でアルコールを楽しむ「適正飲酒」を心がけて、健康ですこやかな毎日を過ごすようにいたしましょう。
※この記事は当財団が作成したスライドビデオを要約したものです。
皆さんは、お酒の適量というのは、どれくらいだと思いますか?
日本酒でたとえると、1合という人もいれば、2合、3合と答える人もいます。つまり、私たちは日頃自分が飲んでいる量を、適量と考えています。しかし、それは体に良いとされる絶対値の量ではありません。
お酒を飲みすぎると、体にさまざまな障害を引き起こすことになります。健康な体で末長くお酒を楽しむために、「お酒と健康」について考えてみましょう。
今、アルコールが大きな問題になっています。
外国て調査されたアルコール依存症者265人における体重1kg 当たり、生涯にわたってのアルコール消費量と肝硬変発生率との関係をあらわしたものてす。アルコール消費量が増えれば、肝硬変発生率も高くなっていることがよくわかります。
お酒は心身をリラックスさせてストレス解消に役立つ反面、極端な場合には急性アルコール中毒になったりして、ときには死に至ることもあります。「百薬の長」とも「気違い水」ともいわれる由縁です。
アルコールについて正しい知識を持って、賢く付き合うために、まず、お酒の種類と代謝のメカニズムからみていくことにしましょう。
アルコールは、醸造酒と蒸留酒に大きく分けることができます。醸造酒というのは、清酒、ビール、ワインなどです。蒸留酒というのは、焼酎、ウイスキー、ブランデーなどです。
醸造酒の特徴は、糖質が含まれていて、比較的アルコール濃度が低いことです。蒸留酒は逆に、糖質がほとんど含まれず、アルコール濃度の高いのが特徴です。アルコール分も糖質もエネルギーとなりますがら、従って、醸造酒も蒸留酒もエネルギーが高く、膵臓へ直接害を及ぼします。糖尿病の人はお酒を控えましょう。
アルコールは、体の中に入って食道、胃、十二指腸、空腸の粘膜から吸収されると、肝臓に運ばれ、そこで約80%が代謝されるといわれています。
つまり、肝臓の中にあるアルコール脱水素酵素の働きて、アセトアルデヒドに分解されます。次に、同じく肝臓の中にあるアセトアルデヒド脱水素酵素の働きて酢酸に分解され、最後に水と二酸化炭素になって排泄されます。つまり、アルコールの分解に関係のある主な酵素は、2つということです。
この酵素の働きは個人差が大きく、特にアセトアルデヒド脱水素酵素の働きの強い人が「お酒の強い人」。弱い人が「お酒の弱い人」ということになります。日本人はアセトアルデヒド脱水素酵素の働きの弱い人が約4割いるといわれています。
また、女性の方が男性に比べて肝臓障害が重症化しやすく、肝硬変になるまでの期間が男性に比べ短いという調査もあります。
お酒の飲みすぎは、肝臓を悪くするだけではなく、栄養不足や全身の細胞への直接の害などを引き起こすことが分っています。さまざまな健康への影響についてみていきましょう。
1.循環器病です。以前は少量のお酒は血圧を下げるといわれていましたが、最近の研究では少量でも血圧を上げるという報告があります。
血圧の高い人がお酒を飲むのは、とても危険です。主治医の指示をよく守り、節度を持ってお酒を飲むことが大切です。
またお酒は、血圧の他に心臓病の発作や脳卒中にも影響を与えることが分かっています。なぜなら、大量にお酒を飲む人は、アルコールそのものの作用によって心臓の筋肉を悪くします。
また、食事が不規則になりがちで、酒の肴としては塩味のきいたものがあ、いじく、塩分をとりすぎる傾向があります。
2.肝臓病です。長年お酒を飲み続けると、脂肪の代謝が悪くなって、肝細胞に脂肪がたまるため、脂肪肝になります。
さらにアルコールによる肝細胞の炎症を繰り返すと、肝臓に傷あとがふえてきます。この状態を肝線維症といいます。
アルコール性肝炎は、極端な大酒によって、肝細胞が破壊された病気です。
このような病気を繰り返しますと、ついには肝臓が硬くなり、肝硬変に至ります。この状態になると、大切な肝臓の働きはほとんどできません。
3.がんです。肝硬変の人は、持続的に炎症が起こっているので、ウイルス性肝炎などと合併したようなとき、がん化しやすいといわれています。
また、濃いアルコールを飲む人は、粘膜を傷つけることもあり、口腔がんや食道がんになりやすいといわれています。
タバコとアルコールの両方を好むひとは、タバコだけの人、アルコールだけの人より、さらにがんになりやすくなるといわれています。それは、タバコに含まれている発がん物質をアルコールが効率的に溶かして、発がん物質の吸収をうながす働きがあるからです。
4.膵炎です。大量のお酒を飲み続けて、7、8年すると、膵炎になり、多くは慢性化します。さらに、飲酒を継続すると次第に膵臓の機能が低下し、消化不良による下痢や糖尿病などを引き起こします。
また、アルコールによる急性膵炎は、多くの場合、大量にお酒を飲んで数時間たったあと、激しい痛みを伴ってあらわれます。
5.胃潰瘍、十二指腸潰瘍です。濃いアルコールは、胃潰瘍や十二指腸潰瘍を生じ易く、これらの病気になった人は禁酒しなければいけません。
ただし、潰瘍の傷が完全に治ったあとなら、少量の薄いアルコール飲料は、食欲増進につながり、リラックスできるので、差しつかえないといわれています。
6.アルコール依存症です。お酒を長年飲み続けているうちに習慣となり、お酒がないと精神的に不安になったり、手の震えなどのいわゆる禁断症状が現われたり、異常な飲酒行動を示したりします。早い人では、3年から6年でアルコール依存症になることがあります。
7.胎児への影響です。妊婦がアルコール類を飲むと、アルコールはそのままお腹の中の胎児に入りこみます。
胎児はアルコールに対して全く無防備なので、直接障害を受けてしまいます。特に、妊娠初期の胎児に対しては影響が大きく、知能障害や奇形などの重大な障害を引き起こすことが分っています。妊娠中はお、酒を飲むのはやめましょう。
アルコールはこのほかにも、飲酒による事故や犯罪など、大きな社会問題となることが多いため、予防への関心が高まっています。
それでは、お酒とうまく付き合うには、どうすればよいのてしょうか?次の十カ条を常に心がけるようにしましょう。
1.楽しく飲もう
2.ゆっくり飲もう 3.食べながら飲もう
4.自分の適量にとどめよう
5.週に二日は休肝日を
6.他人に酒の無理強いをしない
7.薬と一緒に飲まない
8.強いアルコール飲料は薄めて飲もう
9.肝臓などの定期検診を受けよう
10.「丈夫で長持ち」を心掛けて楽しもう
まず、お酒は楽しく飲みましょう。ヤケ酒は、飲みすぎのもとです。ストレスはお酒ばかりに頼らず、趣味やスポーツで解消するようにしましょう。
アルコールの分解速度は個人差が大きいことを忘れずに、お酒はマイぺ一スでゆっくり飲みましょう。イッキ飲みは、絶対やめましょう。
お酒は食べながら飲みましよう。少量のアルコールは、胃液の分泌を刺激して、食欲を増進します。油分の少ないもので、たん白質を多く含んだものなどを食べながら飲むことは、栄養のバランスの面と胃壁の保護の面からも大切なことです。
アルコールを飲む時は、自分の適量にとどめましょう。
多くても日本酒では1〜2合。ビールでは大瓶1〜2本。ウイスキーではダブルて1〜2杯以内にしましょう。
アルコールによる肝臓の負担を軽くさせるために、最低週に2日は休肝日を設けましょう。
盃1杯のお酒で酔う人もいます。他人にお酒の無理強いをしないようにしましょう。お酒の無理強いは、飲めない人にとっては拷問になることを忘れないように。
アルコールは、薬と一緒に飲まないようにしましょう。
睡眠薬、精神安定剤、血圧降下剤、糖尿病の薬などは、その作用を強めて、重大な副作用を引き起こすこともあります。
強いアルコール飲料は、肝臓、膵臓の大敵です。口腔がん、食道がんの発生が多くなることも知られています。日本酒、ワインよりも濃いアルコール飲料は、水割りやお湯割りにして、薄めて飲みましょう。
1年に1回は、肝機能などの定期検査を受けましょう。肝機能検査は、老人保健事業の健康診査、職場検診の検査項目にも含まれています。
「丈夫で長持ち」を心がけて、いつまでも健康で長生きできるように、お酒を上手に楽しみましょう。
ところで、皆さんのまわりに、アルコールによって健康をそこねている人がいたら、主治医や最寄りの保健所又は精神保健センターなどの相談窓口に行くように勧めましょう。
おいしいお酒は、健康な体から。お酒と上手に付き合って、健康な毎日を過ごそうではありませんか。
小林修平※
はじめに
「“アルコール”で肝臓をやられちゃってね」とか、「あいつは、”酒”で人生を棒にふった」とか、よく聞きます。この場合、「アルコール」と「お酒」と同じような意味で使っています。「お酒」にはいろいろな成分が含まれていますが、よきにつけあしきにつけ、「お酒」が心身におこす作用は、いずれも「アルコール」そのものによる影響だからです。ただし、より正確には「お酒」に含まれる「“アルコール”という成分」が肝臓をこわしたり、人生を棒にふらせた、というべきなのです。
近年、「アルコール」が心身の健康に及ぼす影響について、かなり明確にわかってきました。そこでここでは、アルコールと健康について考えてみます。
・「お酒」とは
お酒は、酒税法では酒類、食品衛生法では酒清飲科(アルコール飲料)と呼ばれます。アルコールを1%以上含む飲料のことをいいます。
1 主なお酒のアルコール含有量の比較
穀類・果実を原科として、発酵させてつくった酒が醸造酒です。発酵によってつくった酒をさらに蒸留して、アルコール含有の割合が増したものが蒸留酒です。
主なお酒のアルコール含有量は、イラストのとおりです。
2 どんなお酒をどのくらい飲んでいるか
現在、日本人の酒類の消費量を成人1人あたりに換算すると、およそ1日に260ml飲んでいます。このうち、ビールが全体の約3分の2を占め、以下多い順に清酒、ウイスキー、ワイン、その他となります。
からだに及ぼす影響を考えるには、含まれるアルコール量に換算する必要があります。
摂取する純アルコールの量としてみた場合は、ビールと清酒とで差はなくなっています。焼酎、ウイスキーも割合がぐっと高くなっています。
・純アルコールに換算して考える必要がある
おおまかな目安として、清酒1合、ビール大びん1本、焼酎お湯割り1合、ウイスキーでダブル1杯、ワインでグラス2杯は、ほぼ同量のアルコールを含むと考えてよいでしょう。
・飲酒する人の割合
成人のうち飲酒する人は、およそ男性で8割、女性で6割といわれています。月1〜2回、食前酒を楽しむ人から、連日おちょうしを5本以上もあける人までさまざまです。
清酒に換算して、1日に5〜6合以上を飲む人を大量飲酒者といい、成人男女合計で220万人いるという推計もあります。こういう人たちは毎日、純アルコールを150ml程度摂取していることになり、いずれなんらかの健康障害をおこす可能性があります。
1 アルコールの吸収と分解
・アルコールはまず胃で吸収される
飲んだアルコールは、まず胃から吸収されます。通常は30〜40分かかっておよそ30%程度が吸収されますが、胃に食べ物があるとその時間は長びきます。また、空腹状態で蒸留酒のようなアルコール濃度の高いお酒を飲んだときは吸収量も多く、吸収速度も速くなります。
残りは小腸に移行し、すみやかに吸収されます。胃および小腸で吸収されたアルコールは、門脈を通って肝臓に運ばれます。 ・一部は肝臓を通り抜けて血液中に移行する
肝臓に入ったアルコールの一部は、そのまま通り抜けて、きわめて短時間のうちに全身の血液や体液中にいきわたり、血液中のアルコール濃度が高くなります。
また、飲んだアルコールの3%程度は、呼気や尿中に排出されます。お酒を飲んだあと、息や尿が酒くさいのはこのためです。
・肝臓でアルコールが代謝(酸化)されるしくみ
大部分のアルコールは、肝臓で分解(酸化)されてアセトアルデヒドとなり、ついで酢酸に分解されます。酢酸は、一部は肝臓で利用されますが、大部分は全身の筋肉や脂肪組織に運ばれて、最後は二酸化炭素と水になって、体外へ排出されます。
2 エネルギー源としてのアルコール
アルコールは、上に述べた、二酸化炭素と水に分解される過程でエネルギ一を発生し、筋肉などの組織で仕事や成長に利用されます
・飲酒の場合のアルコールのエネルギ一価は1gあたり5〜7kcal
空気中では、アルコールは1gで7kcalの熱を発生します。しかし、飲酒で多量に摂取した場合には、呼気や尿中に失われる量、実際の利用率などを考えて、5kcalとするのが適当だとされています。
・アルコールが過剰なときはマイナス効果のほうが大きくなることも
しかしながら、お酒の飲みすぎで他の食べ物をとる量が減ったり、体内で代謝が不完全におわるようになると、全体としてマイナス効果を生みます。こうなると、アルコールに仕事や成長のエネルギーを期待するどころではありません。
3 アルコールに強い、弱い
・”飲める””飲めない”は生まれつきのもの
少量の酒でも顔が赤くなり、動悸や頭痛がする人がいます。このような人では、アルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドを速やかに分解する酵素のはたらきが、生まれつき低いのです。そのため、すこしお酒を飲んでも血液のアセトアルデヒド濃度が高くなります。アセトアルデヒドは、アルコールそのものよりはるかに毒注が強く、皮膚の血管を拡張して顔面を紅潮させるだけでなく、いわゆる悪酔いの原因となります。
・イッキ飲み飲酒の無理強いは要注意
日本人の約半数は、アセトアルデヒドの分解がうまくいかない人たちです。顔がまっ赤になっても、多少は飲酒可能な人もいますが、全くお酒を受けつけない人もいます。いわゆるイッキ飲みや、飲酒の無理強いによって、急性アルコール中毒をおこす危険があるので注意が必要です。
・普通に飲める人の、酒酔いの程度と血中アルコール濃度との関係 飲酒をはじめると、血液中のアルコール濃度はしだいに上昇し、「酔い」がおこってきます。普通に飲める人の、血液中のアルコール濃度と酒酔いの程度のおよその目安を表に示しました。
血液中のアルコール濃度の上がりかたは、飲む速さ、一緒にとる食事の量や種類などによって違ってきます。胃が空っぽの状態でウイスキーなどのストレートなどをいちどに多量に飲むと、血液中のアルコール濃度は急激に高くなり、酔いもはやくまわります。
・受け入れる物(体液量)が小さい人ほど作用を強く受けやすい
酒酔いは、アルコールが脳に薬物としての作用を及ぼした結果としてあらわれたものです。アルコールは酔いのほか、からだにさまざまな作用を及ぼします。その作用のあらわれ方は、一般的にいって、体液量が少ない人、(体格の小さい人)、女性や老人に大きめになると考えられています。
吸収されて血液に入り、全身をめぐるアルコールは、その過程で、体内のあらゆる臓器に影響を及ぼしはじめます。
1 薬物としてのアルコールがおこす急性の生理的変化
・アルコールという物質は、体外から入ってきた異物である
アルコールは、生体では生成されない、いわば体外から入ってきた異物であり、からだの基本的な生理活動とは関係ありません。必須の栄養素でもありません。ですから、アルコールがからだに及ぼす変化は、薬物としての作用と考えられています。
・胃や肝臓など消化器系に対する作用
少量のアルコールは、胃の血流をよくし、胃液の分泌を促し、食欲を増してくれます。ただし、大量のアルコールは逆に胃液の分泌を抑えるだけでなく、胃粘膜を傷つけます。小腸では、ビタミン(B群)の吸収を妨げることが知られています。
アルコールは肝臓内では、脂肪の合成を増したり、たん白質の合成を抑制するなど、代謝に変化をおこします。とくに注意したいのは、薬と一緒にアルコールを摂取した場合です。肝臓はアルコールの処理を優先させるため、薬の解毒があとまわしになり、薬の作用が強くですぎたり長く続きすぎたりすることがあります。
・利尿作用(脱水作用)
飲酒時には尿量が多くなることはよく経験します。これは血液中のアルコール濃度が高まると、浸透圧の影響でからだから水を奪って尿として排出してしまうなどのためです。飲酒後にのどがかわくのはそのためです。
・脳(中枢神経系)への作用
脳はアルコールによって、もっとも強く作用をうける部位です。いわば、脳が眠った状態になり、前に述べた「酒酔い」がおこってきます。血液中のアルコール濃度が高くなるほど、脳の眠り(抑制)は深くなります。
・血管系に対する作用
アルコールは皮膚の末梢血管の血流量を増やし、温熱感(顔のほてりなど)がおこり、からだからの放熱量が増します。
2 飲みすぎるとおこってくる健康障害 アルコールのとりすぎが、長年つづいていると、肝臓をはじめ、いろいろな臓器に障害が生じてきます。
・アルコールと肝障害
体内に入ったアルコールの大部分は肝臓で処理されます。そのため、アルコールの直接的な作用で障害が生じます。アルコールによる初期の肝障害は、飲酒をやめれば速やかに消えたり、改菩するのが特徴です。
しかし、1日に、アルコールにして100ml(清酒で3.5合)をとりつづけると、重い肝障害をおこす危険が高いと考えられています。女性は男性に比ベ肝障害がおこりやすく、また、短期間で重症の肝障害になりますので、注意が必要です。
・アルコールと高皿圧、脳卒中
少量のアルコール(25ml程度)は、動脈硬化を予防するようにはたらくといわれています。しかし、毎日飲んでいる人ほど、高血圧になりやすくなります。そのため、脳卒中をおこす危険度も高くなります。そして、ふだんの量よりアルコール摂取量を減らすと、血圧が下がってくることもわかっています。
・アルコールと心臓病
長年、大量のアルコールをとりつづけていると、心筋を傷つけ、異常があらわれてきます。また、休日などに大量のアルコールをとった翌日に、不整脈がおこることがあります。
・アルコールへの依存症
毎日アルコールを大量に摂取している人が、酒がきれたとき、夜眠れない、朝起きると指先がふるえてる、などのことがおこることがあります。これはアルコール離脱症状(禁断症状)です。
アルコールには、もともと身体依存(アルコールを求めるからだ)におちいらせる性質があるのです。これに、イライラをしずめるために酒を飲むといった精神依存(アルコールを求めるこころ)が加わると大変です。しまいには、仕事のことも家庭のことも、また自分自身の健康のことも気を配るゆとりはなくなり、アルコールに溺れる状態となってしまいます。
こうなりたくなければ、毎日毎日、アルコールを大量に摂取するという習慣を変えることです。
健康な生活をおくるためには「適正飲酒」を守ることが大切です。
1 週に2日程度は肝臓を休ませる
毎日かかさず飲酒するのは、肝臓に負担をかけつづけるだけでなく、習慣性となるので好ましくありません。1週間に少なくとも1〜2日は、酒を飲まない日をつくりましょう。
2 清酒換算で1〜2合にとどめる
健康をそこなわないためには、清酒に換算して1日に1〜2合が適量と考えられています。いま飲んでいる量を少し減らしましょう。ほろ酔い加減でやめておきたいところです。
3 食べながら飲む
強いお酒を空きっ腹に流しこむのはいけません、胃の粘膜を保護するために、また、吸収速度を緩和するために、たん白質や脂肪、ビタミン豊富な食べ物をつまみにしながら、楽しい雰囲気で飲みましょう。
4 妊娠中は酒をひかえる
妊娠中に飲酒すると、障害(胎児性アルコール症候群)をもった赤ちゃんが生まれる可能性があります。妊娠中、あるいは妊娠が予測される人は、飲酒をひかえましょう。
おわりに
飲酒の習慣はアルコールの過剰摂取をまねきやすいものです。その結果、アルコール性肝障害やアルコール依存症がひき起こされ、これが進行すると肝硬変や神経障害になり、人生を破局に導くことにもなります。
とはいえ、アルコールは適度に摂取するかぎりはそのような心配はなく、プラスの効果も期待できます。食前酒は心身の緊張をほぐし食欲を増進させ、また、社交の場では人間関係をスムーズにし、精神的な意味で役立つこともあります。晩酌は一日の疲れをいやし、明日への英気を養います。ときどきご厄介になる寝酒は入眠を容易にします。しかし、これも深酒の場合は睡眠そのものが分断されてしまいます。
アルコールは、以上述べてきたように、健康に直接的に影響を及ぼします。アルコールは依存性をもった薬物でもあるので、飲み方については自分自身をしっかりとコントロールすることが必要です。
※小林修平氏(国立健康・栄養研究所長)を班長に、山口迪夫氏(国立健康・栄養研究所食品科学部長)、高瀬修二郎氏(金沢医科大学消化器内科学教室助教授)の報告にもとづいて作成しました。
<監修>健康情報調査検討委員会・委員長細谷憲政
井上 昌次郎※
最近では生活パターンが睡眠を慢性的に犠牲にするようになり、多くの人が不眠に悩まされています。眠っているべき時間帯によく眠れないばかりか、起きているべき時間帯には逆に眠いので、生活の質を大いに損なうことになります。
とはいえ、睡眠には多様性がいちじるしく、私たちの睡眠はたいへん個性に富んでいますから、自分なりにいろいろ工夫して快眠法を開発できる可能性があります。不眠を克服するための参考になる知識として、いくつか紹介しましょう。
睡眠は体温のリズムと密接な関係があります。体温の上昇期に眠りにくく、下降期に眠りやすいのです。この関係から、就寝直前ならぬるま湯、もっと前なら熱めの湯で入浴すると、寝付きをよくします。
過剰な感覚刺激は眠りを妨げますから、寝室の色彩、保温、保湿、遮光、遮音、防風、防臭、防塵、防虫などにも工夫してみましょう
。 やすらぎのメロディーや単調な音のリズムが眠りを促進することがあります。また、快い音楽で気持ちよく目覚めることも可能です。適度の音響効果を入眠と覚醒のためにとり入れるのも、快眠のための知恵といえましょう。
寝る前にちょっと食べたり飲んだりすると、気分が落ち着いて眠りやすくなる場合もあります。消化のよいもの、吸収の早いものを少量とるのがこつです。寝酒としてアルコールが好まれますが、アルコールは入眠を促進するにはよい効果はあるものの、睡眠を維持するには悪い影響があることに留意してください。
快眠グッズとして各種の枕やふとんが市販されています。さまざまな素材や形状の寝具のなかから、自分の眠りに最も適したものを見つける機会が増えたのです。それだけ、現代は睡眠にとってよい時代でもあることを見逃してはなりません。
※東京医科歯科大学教授
肝臓は右上腹部のあばら骨の下にあり、大人では1,100〜1,400グラムの重さがある大きな臓器です。 肝臓は人間が生きるために必要な多くの働きをしています。その中で特に大切なのは代謝機能です。私たちが食べた物は胃や腸などの消化管で消化、吸収され、たんぱく質、糖質、脂肪などの栄養物は血液によって肝臓に運ばれます。肝臓はきわめてたくさんの酵素による複雑な化学反応によって、これらをからだの構成分やエネルギー源として活用できる形に作りかえ、生命の維持や活動に役立てているのです
。 そのほかに、胆汁を作って胆管から腸に排出し、不用なものを糞便とともに体外に出したり、脂肪の代謝にも関係しています。また化学処理によって体内の有害物質を解毒し、出血を止めるための血液凝固に必要な物も作り出すなどの働きもしています。
肝臓の病気にはいろいろな種類があります。最も注目されているのは肝炎ウイルスの感染によるウイルス肝炎と、お酒の飲み過ぎによるアルコール性肝障害です。またこれらが進行して肝硬変になることがありますし、肝がんを生じることもあります。
ウイルス肝炎には急性肝炎と慢性肝炎がありますが、ウイルスの種類により、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎に分けられます。日本人の肝硬変の85%はウイルス肝炎によるもので、アルコール性は10〜15%です。が、アルコールの消費量が増えるとともに、アルコール性肝硬変が増えています。
お酒と肝臓病
多量のお酒を飲み続けるとアルコール性肝障害が起こります。お酒による肝臓病は、お酒の中のアルコールによって起こります。アルコールによる肝障害の程度には個人差がありますが、飲んだアルコール量が多ければ多いほど起こりやすくなります。
お酒を多量に飲むと、肝臓には中性脂肪がたまって大きくなり、脂肪肝といわれる状態になります。ここで飲酒をやめ、たんぱく質を十分に含む食事を食べ、太り過ぎを改善すれば、肝臓は元の正常な状態に戻ります。しかしさらに飲み続けると肝臓の繊維が多くなり、アルコール性肝炎も重なって、ついには肝硬変となってしまいます。
日本酒1日5合を10年以上飲み続けると高率に肝硬変が生じるといわれており、肝障害を起こさないためには、個人差はありますが、1日2合以内に止めておく必要があります。しかし、お酒にはいろいろあります。日本酒1合には約23グラムのアルコールが含まれていますから、これに相当するほかの酒類の量を知って、日本酒として何合分のアルコールを飲んだかを考えておく必要があります
日本酒(清酒)1合のアルコール量は、ビール大びん1本、またはウイスキーダブル1杯とほとんど同じです。従って、ビールを1本飲んで、そのあと日本酒2合飲み、さらに2次会でウイスキーをダブルで2杯飲んだら、日本酒5合飲んだことになります。肝臓にとっては大変な負担であるばかりでなく、日本酒1合分のアルコールの体内での処理には普通の人では約3時間かかりますから、アルコールは翌日のお昼ごろまで血液中に残っていることとなります。
肝臓病の危険信号と検査
急性肝炎や進行した肝臓障害では、白眼や皮膚が黄色っぽくなる黄疸が現れることがあります。
しかし、肝臓の病気があっても、はっきりした症状が現れない場合が多く、あったとしても、だるい、食欲がない、疲れやすい、根気が続かない、おなかが張る、酒に弱くなったなど、ほかの病気でも現れやすい症状が多いのです。
従って、大したことはないとして見逃されてしまうことが少なくありません。このようなときに、血液をとって肝臓機能検査を行うと異常が発見されて、肝臓病を早期に発見することもできます。肝臓機能検査は、健康診断でも人間ドックでも必ず行われますので、症状が全くないうちに異常を発見して、早期に治してしまうことができます。異常があった場合には、腹部超音波検査や腹部CTなどの画像診断を外来で受けることもできますし、さらに検査が必要な場合には、入院して、肝動脈撮影や腹腔鏡検査、肝生検などを行うこともあります。
肝硬変になると、手のひらが赤くなる手掌紅斑が起こったり、赤い小血管が拡張して、くもがはったようなくも状血管腫が胸や背中、腕などの皮膚にみられることがあり、また顔の皮膚が黒ずんできたり、男性でも乳が大きくなる女性乳房が現れたりします。
さらに進行すると、おなかに水がたまる腹水や、腹壁静脈怒張、意識障害などを起こすことがあります。
アルコール性肝障害の予防
お酒の飲み過ぎによる肝障害は、飲んだアルコール量が多ければ、それだけ進行します。特に食事やつまみを食べずにお酒だけ飲んでいる場合は、肝臓は痛めつけられます。食物のたんぱく質は、進行の勢いを和らげる働きがあります。また女性は男性に比べて、アルコールによる肝障害を起こしやすい傾向があることにも注意しましょう。
また、肝臓がアルコールを処理できる能力やスピードを考えて、ガブ飲みせず、ゆっくりと、そして楽しく飲むことも大切です。また夜零時以後の飲酒は、翌日まで体内にアルコールが残りやすいことも考えて、避けたいものです。
毎日酒を飲んでいる人が、さらに多量の酒を飲むようなときに、アルコール性肝炎が起こり、だるさや食欲不振が強くなりやすく、時には黄疸、腹水、意識障害など、危険な状態に陥ることもあります。このような機会にアルコール性肝障害は特に進行しますので、十分に注意してください。
休肝日をつくろう
毎日お酒を飲む連続型の人と、間を空けて飲む宴会型の人とでは、同じ飲酒量でも、連続型の人のほうが肝障害を起こしやすく、重くなりやすいといわれています。少なくとも週に2回はお酒を飲まない休肝日をつくることによって、肝障害が回復する時間的な余裕が与えられることになりますし、飲まない日は比較的栄養がとりやすいために、肝臓の力を強めることができます。
また、多量の酒を飲んでいる人では、休肝日はアルコール依存症(以前はアルコール中毒といわれた)のテストにもなります。アルコール依存症になると酒をやめられません。
そこで休肝日をつくれるかつくれないかということは、アルコール依存症かどうかという判断の目安にもなるでしょう。
できるだけ休肝日をつくることに努めて、肝臓をいたわっていただきたいものです。
休肝日をおいたからと安心して翌日暴飲すると、かえって逆効果になってしまいますので注意してください。
肝臓を守るために必要な酒を飲むときの主な注意点を表2にまとめてみました。
※東急病院院長
大原健士郎※
「酒は百薬の長」という諺がある。確かに、適量を飲めば、栄養源にはなるし、気分も爽快になり、精神安定剤的な働きもする。
しかし、長年精神科医をやっていると、酒のために身体をこわしたり、早死にをしたり、自殺をしたり、身を持ち崩したり、一家離散をしたり……する人がいかに多いかをいやというほど経験させられる。
2,000円の小遣いを持って酒を飲みに行くとする。良い酒を少量飲めば良いのに、この種の人は粗悪な安い酒を大量に飲む。そして得をしたと思っているが、そうではない。粗悪な酒を大量に飲み続けると、身体の弱い所からやられてくる。
心臓が弱ければ心臓がやられるし、肝臓が弱ければ肝臓がやられる。
脳が弱ければ脳がやられる。
「酒は心のうさを晴らすもの」という歌の文句があるが、アルコールは昔、麻酔薬として使用されたこともあるくらいだから、多くの場合、精神安定剤や睡眠薬代わりになり、酔いがさめた時には気分が晴れやかになっていることが多い。
しかし、時には気分が晴れるどころか、自殺に走ってしまうこともある。アルコールは脳の中枢を麻痺させる。
そうなると自分をコントロールできなくなる。
もしも潜在的な自殺願望があったとすれば、素面(しらふ)の時はその願望を抑圧していたものが、飲酒することによって歯止めがきかなくなり、自殺願望が表面に噴出して自殺に走ることもあるのである。
酒癖の悪い人もいる。
笑い上戸(じょうご)ならまだしも、泣き上戸とかからみ上戸などはいただけない。彼らは酒の上のこととして大目に見てもらえると思っているらしいが、周囲の人たちは度重なると許してはくれない。結局は人間関係が悪くなり、孤立してしまう。
アルコール依存者には離婚している人が多い。配偶者に逃げられているケースが多いのである。アルコールにまつわる諸問題は結局、自分の意志で解決しなければならない。
病気といっても、他の病気とは違う。治すのは自分である。
そういうこともあって離婚率は高い。彼らは「意志が弱い」と嘆くが、どんな状態に追いつめられられても酒を飲み続けるとすれば、事そのことに関しては非常に意志が強いと反論する人もでてくる。自分の力でどうしても治せなければ、医師、家族、断酒会の人たちの協力をえて、まず断酒に踏み切ることである。節酒はあまり成功しない。
少量の酒でも身体にはいると、人間がガラリと変わるからである。
※浜松医科大学教授
肝臓病というと、かつてはB型、C型、それにA型などの肝炎ウイルスによる肝炎、肝硬変、肝臓がんが多かった。今もそれに変わりはないが、アルコール消費量の増大とともに、アルコール性肝障害が増えている。ウイルス肝炎の中にもアルコール性肝障害を合併した“複合型”もかなりの率を占めている。また薬剤性肝障害も少なくない。年末、年始、お酒を飲む機会も増える。この冬は新型インフルエンザの流行も心配される。肝臓にとって厳しい季節になりそうだ。
激増するグレーゾーンの人たち
日本の国民一人当たりの酒の消費量は、年々増え、昭和20年代までは純アルコールに換算して年間2リットル以下だったのが、現在は約9リットルと4,5倍に増えた。その結果、アルコールによる肝障害も増加している。日本の飲酒人口も着実に増えており、平成5年には6,267万人、大酒家は230万人と推定されている。
日本人の死因をみても、1位がん、2位心臓病、3位脳疾患と続き、9位に慢性肝疾患および肝硬変が登場する。30代後半から60歳代前半では死因の4位から6位に上昇している。さらに死因1位のがんも、臓器別でみると目下、胃がんがトップだが、数年後には肺がん、肝臓がんが胃がんを追い抜くとの予測もある。
人間ドックの検診結果からも肝障害の増加がはっきり現われている。1984年から10年間に全国の人間ドックで健康診断を受けた約180万人の検診結果によると、肝機能異常は当初10人に1人だったのが、調査最後年には4人に1人に激増した。その多くは肝機能が異常値に限りなく近い、いわゆるグレーゾーンの人たちだ。
うち8割が肥満で、40代の男性が大部分を占める。こうした男性群は過食のうえ、脂っこいものを好み、酒を飲み、不規則な生活習慣の人たち。完全なアルコール性肝障害を起こすタイプ。反対に、太っていないのに脂肪肝の人も。この人たちは酒を飲むときに、つまみをほとんど食べないで酒ばかり飲むタイプ。栄養が十分にとれず飲酒量だけが多く、肝臓へのダメージも大きい。
肝臓は「沈黙の臓器」といわれ、肝障害がひどくならないと、症状を現わさない。特に毎日、日本酒にして5合以上を10年以上続ける“大酒家”といわれる人は、飲酒習慣を変えない限り、間違いなくアルコール性肝硬変になる。
アルコール性が12〜13%
アルコールが原因の肝障害は、すべての肝障害の中でどれくらいあるのだろうか。東京慈恵会第三病院の田中照二教授は「肝硬変でみると、C型肝炎ウイルスによるものが50%、B型が30%。アルコールによるものが12〜13%だが、はっきりとは言い切れない」と言う。
大酒家で肝炎ウイルスが陰性で薬などの肝障害が見当らなければ、肝障害の原因はアルコールと特定できる。しかし、そうでない場合は判定が難しい。例えば、肝炎ウイルス陽性で、かつアルコールを飲んで肝障害を起こした場合。原因がウイルスか、アルコールか。あるいは両者半分ずつか、3対7の割合か、などといった具合。
確実な診断には、肝生検が必要で、アルコール性とウイルス性では肝臓の傷害を受けている場所が違うため、その違いから原因を特定できる。両者が原因となっている”複合型“も傷害の程度、場所から判定できる。
危険なアルコールに弱い人
ところで、アルコールは胃と小腸から吸収されて肝臓へと運ばれ、そこで摂取されたアルコールの90%以上がアセトアルデヒドへ、さらにアセテートへと分解、代謝され、最後は炭酸ガスと水になって、排出される。
ところが、同じように飲んでいても、酒に強い人と弱い人があり、一滴も飲めない人もいる。人種差もあり、「日本人は欧米人に比べてアルコールに弱い人が多い」(田中教授)。ある調査によると、日本人ではアルコールを分解、代謝する酵素の能力が完全な遺伝子を持つ人が6割、低い人が3割、分解能力がない完全な「下戸」が一割だという。
田中教授は「分解能力の低い人、まったく飲めない人は要注意」と警告する。このような人はアルコールの中間代謝産物で毒性の強いアセトアルデヒドが長い時間血液中を巡回することになる。その結果、頭が痛くなったり、吐いたり、“悪酔い”する。宴会などで“一気飲み”して、急性アルコール中毒で急死するのもこうした人に多いという。
また、もともと酒が飲めない体質なのに、“鍛えて”飲めるようになっても「喜ぶことではない」と田中教授は言う。アルコールを代謝、分解する酵素が増えたわけではなく、肝臓の別の酵素が代役を務めるようになっただけのこと。肝臓に負担がかかり、能力が完全な人に比べて、アルコールによる脂肪肝、肝線維症、肝炎、肝硬変へと進行する率が高い。
肝臓の健康を考えるなら、日本酒で一日に2合以下、ビールなら大瓶2本以下、ウイスキーならダブルで2杯まで。最低でも週に一日は「休肝日」を設けることだ。
市販薬でも肝障害起こす?
薬による肝障害も“日常茶飯事”で起きている。すべての肝障害の10〜20%を占めるという専門家もいる。なぜ、このように薬による肝障害が増えたのか。その理由は、軽い肝障害も発見されるようになったこと、薬の副作用について、医師や患者の関心が深くなったこと、昭和30年代以降開発される新薬が多くなったこと\などが挙げられる。
これら薬物性肝障害は、薬そのものの毒性によるものと、薬アレルギーによるものとがあるが、ほとんどの薬が肝障害を起こす可能性がある。
薬物性、薬アレルギー性を含めて、肝障害を起こす恐れのあるものを挙げると、セファロソポリン系、ペニシリン系などの抗生物質。全身麻酔薬、解熱、鎮痛薬、抗てんかん薬などの中枢神経作用薬。サルファ剤、抗結核薬などの化学療法剤。降圧剤、抗不整脈薬、抗動脈硬化薬、血管拡張剤などの循環器作用薬。肝疾患用薬、下剤、胃疾患用薬などの消化器作用薬など。
田中教授の病院では、内科に入院した患者のうち、薬で肝障害を起こした患者は年間十数例あり、高血圧で入院した患者で肝機能検査で異常を示すものも。原因不明の肝障害の中にも薬が原因の可能性のあるものもあるという。
薬局や薬店で市販されている薬にも肝障害などいろいろな副作用を起こす恐れのあるものも少なくない。最近は医師が処方している薬が、医師の診断なしに薬局、薬店で買えるようになった。中には使用上の注意に「血液の病気、腎臓、肝臓の病気…の人は服用しないでください」というものまである。市販の薬とはいえ、「能書」をよく読んでから服用しないと、副作用を起こす恐れがある。
主なアルコールによる肝障害の種類
アルコール性脂肪肝
毎日、日本酒に換算して平均3合以上の飲酒を、少なくとも5年以上続けている「常習飲酒家」に起こる。常習飲酒による肝臓の脂肪代謝障害のため、食物中の中性脂肪が代謝されないまま肝細胞内に沈着した病態で、禁酒によって速やかに治る。しかし、そのまま飲酒を続けていると、高度の肝障害へと進行していく。
アルコール性肝炎
「常習飲酒家」で、飲酒量の増加を契機に、肝細胞の変性、壊死と炎症反応を生じたもの。軽症なものから、極めて高度で急性肝不全の状態に陥り、短期間に死亡してしまうものまである。また、肝炎の程度が重くなくても、飲酒を続けていると、時に禁酒しても肝硬変へと進行してしまうものもある。
アルコール性肝硬変
毎日、日本酒に換算して5合以上を10年以上続けた「大酒家」で、特徴的な肝臓の病変が見られる。肝臓の表面はゴツゴツして硬くなり、肝臓の働きも落ちる、アルコール性肝障害の終末像。
アルコール性肝線維症
「常習飲酒家」で、肝臓に比較的特有な形状をした線維化が起こる。日本に比較的多い。飲酒を継続することによって、肝硬変へと進行する。