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脊髄損傷(せきずいそんしょう、英語:Spinal Cord Injury)は、主として脊柱に強い外力が加えられることにより脊椎を損壊し、脊髄に損傷をうける病態である。また、脊髄腫瘍やヘルニアなど内的原因によっても類似の障害が発生する。略して脊損(せきそん)とも呼ばれる。脊髄を含む中枢神経系は末梢神経と異なり、一度損傷すると修復・再生されることは無い[1]。現代の医学でも、これを回復させる決定的治療法は未だ存在しない。
損傷の度合いにより、「完全型」と「不完全型」に分かれる。「完全型」は脊髄が横断的に離断し、神経伝達機能が完全に絶たれた状態であり、「不完全型」の場合は脊髄の一部が損傷、圧迫などを受け、一部機能が残存するものを指す。
完全型の場合、損傷部位以下は上位中枢からの支配を失い、脳からの運動命令は届かず運動機能が失われる。また、上位中枢へ感覚情報を送ることもできなくなるため、感覚知覚機能も失われる。つまり「動かない、感じない」という状態に陥ることになる(麻痺)。しかし全く何も感じないわけではなく、受傷部位には疼痛が残ることが多い。また、実際には足が伸びているのに曲がっているように感じられるとか、痺れなどの異常知覚、あるいは肢体切断の場合と同様、麻痺野で本来感じないはずの痛み(幻肢痛、ファントムペイン)を感じることもある。
受傷後、時間が経過して慢性期に入ると、今度は動かせないはずの筋肉が本人の意思とは関係なく突然強張ったり、痙攣を起こすことがあり、これを痙性または痙縮と呼ぶ。
感覚、運動だけではなく自律神経系も同時に損なわれる。麻痺野においては代謝が不活発となるため、外傷などは治りにくくなる。また、汗をかく、鳥肌を立てる、血管を収縮/拡張させるといった自律神経系の調節も機能しなくなる為、体温調節が困難となる。
かつては脊髄損傷患者の寿命は健常者に対し、大幅に短縮されるというのが通説であったが、現在では医療技術の発展に伴い、およそ5%程度短いだけの平均寿命となっている。その分脊髄損傷患者の生活を改善する必要性が増していることになる。
ヒトの脊柱は上から順に頸椎 (C1-7) 、胸椎 (Th1-12) 、腰椎 (L1-5) 、仙椎 (S1-5) 、尾椎 (1) に分けられる。損傷箇所が上に行くほど、障害レベルは高くなる。他者に障害の度合いを説明する際、「C5の完全型」「Th12の不完全型」等と表現することで、障害レベルをある程度伝えることが出来る。
仙骨以下では排泄、勃起などの機能に支障をきたし、下部胸椎から腰椎では両下肢が麻痺し、車椅子の生活を強いられる。排泄が自力では困難となることは本人のみならず家族など介護者にとっては大きな負担となる。上部胸椎では腹筋背筋が効かなくなるため体幹の保持が困難となる。さらに頸髄を高い位置で損傷すると手指だけでなく呼吸筋まで麻痺し、人工呼吸器なしには生きられなくなる(以上全て完全型の場合)。
神経診断学の知識を用いればある程度は損傷の部位を想定することができる。C3は横隔神経を支配するのでこの部位が障害されると自発呼吸ができなくなり人工呼吸器を用いなければならない。呼吸中枢は脳幹にあると考えられているので眼球頭反射陰性の場合は同様に危険な状態である。C5は上腕二頭筋を支配するので、これが障害されると自力で肘が曲がらなくなる。C6は手首を背屈させる、C7は手首を屈曲させ、上腕三頭筋を支配する。C8は指を曲げることに関与し、Th1は指を開いたり閉じたりする運動に関与する。それより下は運動神経ではなく感覚神経で評価する。Th4は乳首周辺の感覚に関与し、Th7は剣状突起周辺の感覚に関与する。臍部がTh10であり鼠径部がTh12である。
頸髄損傷はC6あたりで起こることが頻度としては多く、C5が麻痺していないため上腕二頭筋は収縮ができるがC7より上位の損傷の場合は麻痺しているため上腕三頭筋が収縮できず肘を自力で伸ばすことができない。
現在日本には10万人以上の脊損者がおり、毎年5000人以上があらたに脊髄損傷を負っている。1990 - 1992年の調査によると、受傷原因の割合は次の通りである。
近年はスノーボードなどあらたな受傷原因となるものも出てきており、構成は変化しているものと思われる。事故の防止、万一事故にあった際の身体の保護の重要性が増している。
特に、交通事故によるものでは、オートバイ乗車中の事故を見過ごすことができない。件数自体は四輪車によるものより少ないが、オートバイ人口自体が圧倒的に少ないので、率としては高くなる。統計及び防護策についてはオートバイ#オートバイ事故に対する社会的責任、オートバイ#ライディングギア参照。 また2005年の福知山線脱線事故による脊髄損傷者は20人以上にのぼるとみられている。